「 ぼくたちの語ること 」2016年11月29日 11:31

「 ぼくたちの語ること 」



『 ただ 嘘をつかない 正直なことばだけが
  ぼくたちを高めることを忘れずに
  カーチャ ぼくたちはぼくたちのことばで語ろう 』  ※

とその人は書いてしまった

その人は知ることが許されていなかったのだ
ぼくたちを高めたものがなんであり
ぼくたちを貶めたものがなんであるかを


その借財を ぼくたちが引き継いだ借財を
その正統な継承者であるぼくたちはまだ憶えているか
ぼくたちはなおそれらから怖れず逃げずにこらえているか


継承されたものはいまもくりかえし飽きもせず
形を変え条理を整え肉片のこびりついた鉗子で
ぼくたちを開き犯し偸みぼくたちを裂き続ける


ぼくたちは競ってその優秀な助手となって生きる喜びを味わう
嘘が正直のかたちとなり 正直がぼくたちにひそむ腫瘍となる
なにが高められ なにが卑しめられたか ほんとうを教えてくれ


その人はまだ知らずにいられたのだ
時代はようやく流れ出た血が乾くところだったのだ
傷口はようように薄い皮膜を得たところだったのだ


そのようにしてぼくたちは高まり
そのようにしてぼくたちは嘘から解放され
そのようにしてぼくたちはぼくたちのことばを語っているのだ



※鈴木喜緑 「ことば 」より 『死の一章をふくむ愛のほめ歌』(1958)所収

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つれづれにしたためた作文を投稿させていただきます。本人は「詩」を書いているつもりですが,、恥ずかしながら「詩」とは何かがわかっているわけではありません。

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