詩という隘路

　プレートができはじめたのはほぼ４０億年前のことらしい
　それから２０億年の時間を積み重ねて最初の超大陸が出現
　プレートテクトニクス説によればその後数億年のサイクルで
　大陸は名を変え離合分散を繰り返すことになったという


　われわれ生き物は数秒前後のできごとに自ら翻弄される
　われわれのプレートは数秒前後の離合分散に躍起となる
　われわれの大陸は暗赤色に燃え暗黒色に黙し白色に凍え
　われわれはおのれの断層を日々産み落とし平気で捨てる


　この世にはじめてプレートができあがる頃に
　最初の生命が生まれたのではないかと科学者は論じている
　つまり自己触媒による自己複製なる自然史の濫觴
　核酸分子という顆がおのれを生みだす原初の創造


　われわれを支えるプレートと生命の絆はどうやらかくも強固のようだ
　故に前者のささやかな揺れがたやすくわれわれの原初の記憶を揺さぶる
　盤石な足もとを掬い呻くがごとく太古のおそれを呼び覚まさせる不思議な一撃
　生き物がヒトとして生きるためのプレートがこうして配列用意され


　それは煮え滾り 凍結し　破砕され　硬化し　あるいは融解し
　無数の罅をおのれの触媒となし　かくして　他者を見いだし
　時の尺度を超えて離合し　空間の矩をいなして分散し
　ときには己に壊れ　ときには他者に救い出され その苦行を忍び


　プレートが現れたのはほぼ４０億年前のことだとして
　それが離合分散を繰り返してきたことが事実だとして
　現代の六大陸が２億年後にはまた合一するのだとして
　そのように地球が己にはげしく震えているのだとして


　われわれなる生き物は数秒おきの離合分散に飽きもせず
　それがわれわれなる喜びであり悲しみであり命であれば
　それこそが決して失えぬわれわれなる触媒なのだからして
　われわれこそは終（つい）の震えにまで奮うべきなのである


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