「 冬の日ざし・夏の日ざし」2018年08月13日 08:04

〈 冬 〉

      ねばつく時間があなたのベッドをおおう
      管を差し込まれ管に繋ぎとめられ
      よどんだ吐液のなかにあなたが溶け出てゆく
      それが悲しみか怒りかわからぬまま
      ぼくはひたすらうろたえる

      むごい夢にのみこまれているような
      あなたのかたちがぼくを殴打する
      あなたから成されたぼくから
      いきなり遠ざかろうとでもするあなたの前で
      ぼくはなすすべを知らぬでくのぼうとなる

      いのちの行く末を伝えようとするのか
      糸をたぐり糸をつむぎ糸をかさね糸をかがり
      ひそかに描いてきたき文様を解きほぐすひと
      それが諦めか懼れかわからぬまま
      ぼくはただ愚昧にあなたをさすりつづけるばかり

      問いにならぬ問いだが
      誰かわからぬ誰かにつきつけねば
      我慢できないが
      答えにならぬ答えだが
      誰かわからぬ誰かに投げつけねば
      承服できないが

      冬の日ざしを受けとめる病床の窓
      おそれるなと仄かににじむひかりのもと
      大切な預かり物を返納する準備に勤しむように
      あなたを支えてきた様々なものを
      いともたやすく捨て去って小さく小さくなるひと

      問いにはならぬ問いを問い
      答えにならぬ答えを答えて
      あなたは去りあなたは残る
      ゆりかごのような時間にゆすられながら
      あなたはあなた自身に結晶してゆく 
               
                      

     
〈 夏 〉


     忘れ物のような白いかけらが
     燃えさかったベッドに置き残されて
     思いの丈ぬくみを発している
     なおも惜しみなく与えてくれるあなたの
     わたしたちへの最後のぬくもり

     さようならのことばを
     ひとつひとつ拾いあつめても
     さようならのほてりを   
     ひとつひとつ白瓷に納めても
     拾いきれず納めきれぬおびただしさ

     いまはすべてを超えて
     あなたはかしこにあります
     わたしは死に
     わたしたちは生きる               (※)
     ひとつのことばがあなたを象(かたど)る

     炎熱の昼さがり
     夏の日ざしを浴び
     あなたは無窮自在に解き放たれ
     わたしの知らぬ場所へ歩んでいった
     多分わたしたちが生きる普遍にむかって


                        

      ----------------------------------

        ※ 「私ハ死ヌガ
              我々ハ生キル」   稲葉真弓『光の沼』より
<< 2018/08
01 02 03 04
05 06 07 08 09 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

このブログについて

つれづれにしたためた作文を投稿させていただきます。本人は「詩」を書いているつもりですが,、恥ずかしながら「詩」とは何かがわかっているわけではありません。

最近のコメント

最近のトラックバック

メッセージ

RSS