「 決 壊 」2018年07月15日 19:46

   水が引いたというので
   おそるおそる戻ってみた
   田畑も道路も標識も
   ことごとく汚泥にまみれ
   色彩の一切合切が奪われている
   樹木も車輌も家屋も人の往来も押し流されて
   あるべき位置があるべき位置から奪いとられている

   足が容易に運べないのは泥濘のせいだけか
   景色は一変し歩路の確保もままならない
   蒸された土の匂いが粘っこい行く手となる
   自分をこの風景のどこに据えればよいのか
   ここはいったいどこなのかと怪しむ思いに
   かつての住まいの残影が覆い被さってくる
   目眩くばかりにほてる光と静寂

   つましい安堵の抱擁とともに
   むごい知らせが執拗にまとわりつく
   一瞬にして持ち去られたいとおしさ
   埋めようもない虚脱に威圧され
   空間や時間がこわばり歪む
   降り濡(そぼ)つかけがえないつながり
   遠方からの知らせをそのように受け止める

   しかし今わたしの目の前に拡がるものは
   めまぐるしく波打つ雲海そびえたつ山嶺爽やかな風
   足もとにはあまねく可憐な草花の咲き恒(わた)り
   尾根ににぎわう人々の稜線と色彩である
   どのような分岐器がいかなる空間が時間が
   わたしたちのあるべき位置を
   ふるいわけているのか

   わたしたちの日常が露わとなる
   あれはわたしたちの放恣な豪雨
   あれはわたしたちの杜撰な決壊
   あれはわたしたちがみちびく濁流
   引き込まれ呑みこまれ流されていく
   それをよそ事に眺めるほかない瞳
   わたしたちの日常がおのれにぬかるむ



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つれづれにしたためた作文を投稿させていただきます。本人は「詩」を書いているつもりですが,、恥ずかしながら「詩」とは何かがわかっているわけではありません。

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