「 風も吹かんのに 」2016年11月23日 11:20

「 風も吹かんのに 」


一日祖谷に遊んだ
ここにも外国人観光客が押し寄せて賑やかだった
深い山あいの小さな村 紅葉はすでに過ぎ山は枯れ始めていた
渓谷を流れる遊覧船に乗って豊かな水量にしばし流された
奇岩が続き褶曲しつづける大地のシワが迫ってくる


こころほぐされる田舎訛りの遊覧船ガイドに思わず頬が緩む
整備されて行き届いた舗装路のどこにも
大歩危小歩危のいにしえをみつけることはできず 
今はその険路の名残を両岸に迫る奇岩に忍ぶばかり
狭隘で厳しい急勾配の車路と姿を見せた猿の親子だけが往時を彷彿させた


客の入っていない茶屋にて
腰のたしかな暖かい祖谷そばを愛でた
悲鳴をかかえて揺れるかずら橋には
高齢者が足をすくませて欄干にしがみついている
おぼつかない挑戦に自分の年齢を懐かしんでいるにちがいない


かみさんが 皆さん これが自分の最後の渡りと思って挑んでいるのだと
しみじみと声を発する
風も吹かんのにゆらゆらと 昔憶えた里謡の一節がよぎる
ゆらゆら揺れながら渡るほかない谷間の橋を
おまえは渡たれたのか それともしがみついているだけかと 吹かぬ風に訊かれた

                   

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つれづれにしたためた作文を投稿させていただきます。本人は「詩」を書いているつもりですが,、恥ずかしながら「詩」とは何かがわかっているわけではありません。

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