「 ぼくたちの死 」2016年09月22日 08:38

「 ぼくたちの死 」


  --------「 私ハ死ヌガ、我々ハ生キル。 」
              稲葉真弓 「光る海」より 
              『海松』2009所収 


ぼくは死に
あなたも死ぬ
神すらも死ぬ。
誰もが知っている。
誰ひとり逃れられない摂理だ。


始皇帝はその摂理を受け入れたくなかったのだと聞く。
不老不死の幻をこよなく愛し、その幻によって彼は滅ぶ。
遡ってギルガメシュ。
まんまと蛇に若返りの草を奪われてしまう失態を犯した古代神。
彼の不始末で、以後、人間は不老不死の機会を奪われた。


だから
ぼくは死に
あなたも死ぬ。
あなたの愛する人も。
誰が死から自由になれるだろう。
誰一人、生から自由になれぬように。


しかし、我々は生きる。
我々はぼくをのみこみ、
あなたをつつみこむ。
だから我々はぼくの、
あなたの生の源泉だ。


死はぼくの生を襲い、
あなたの生を襲い、
冷厳な勝利を飾る。
そのようにしてのみ「私」は、死を死に、
そのようにあってのみ「我々」は生を生きる。


だからこそ思いとどめるべきだ。
その永遠の反復が、個の死の単純な反復であってよい理由など
ひとつとしてありはしないことを。
それは生の敗北だ。
生を生として生き、生を生に求める者にとっての拭いえぬ恥辱だ。


ぼくは死ぬ。
あなたも死ぬ。
ぼくの、そして、あなたの愛する人も。
悪人も、聖人も、権力者も、罪人も、善良なつましいすべての人も、
おしなべて生きて死ぬ。


生にひとつとして同じ生がないあかしのように、
ひとつとして同じ死はない死を死ぬ。
死という免れぬ真実にあって引き寄せあい、引き継ぎあう生。
こんなごった煮の生き死にの大鍋で煮詰められるほか、
われわれは我々として存続しえず個として立ちあがれない。


こうして個は個を支え、こうして個は個を育み、
個は個として個に挑み、その永遠を、死して生きていく。
ぼくこそは、そしてあなたこそが「我々」の根拠だ。
だから
個がよりよく死ぬ、その条件は既に明らかだというのに。


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つれづれにしたためた作文を投稿させていただきます。本人は「詩」を書いているつもりですが,、恥ずかしながら「詩」とは何かがわかっているわけではありません。

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