「 今日の作文 」 ― 2017年02月17日 09:53
「 今日の作文 」
= 生はどこにでもあり
どこででも意味とはぐれていた =
大野新 「生の意味」より
詩集『階段』1958 所収
数行を殴り書く
数行を息切らし殴り書く
先ず 有用なものと無用なものとの闘い と書く
無用になりきれぬ心が先頭をきって倒れるであろう
それで有用の棘が横柄に勝ち名乗りをあげる なんと恥ずかしいことだ
その勝ちどきにかしづく影の群れはどこかでみたことがある
金具のはずれかかっている装身具を間断なく気にしながら
一生を送り棄てていく群れ これはなんの有用の謂いか
数行を修整してみる
数行はしばしば判読困難となる
勝ち残った有用なものが共食いを始めたと書かねばならない
有用の無用と化す恐怖がいかにもあわれである
熾烈な生存競争馴化適応を経て発達した存在の本能が
有用の代謝機能にかぎりなく狡猾な思慮深かさと矜持をもたらした
故にかたちをなさねば有用ではないとみるのはもちろん誤解である
その誤解に足を踏み入れたばかりにおれは決定的に負け犬なのである
有用の飼い葉の味に育てられて他は見向きもできなくなる
必然的に消化酵素は特異化されその反応は選択的になる
同様に単語と単語との結合子はわがままな臨界に移行し
世界は軋みをたて Point of No Return のフラグを振る
数行を反復する
数行は判読を拒絶して攻撃姿勢を取り始めている
半世紀も昔のひとこまのことだが
無用の用と黒板に大きく書き出した大学教授の背中を思い出した
春の日となればこれを君たちにプレゼントしよう
いつか君たちがほのぼのと思い返すようにと彼は太上老君を真似た
あの教授はあのプレゼントを向こう岸にどのように持ち込んだのだろうか
無用と有用の折衷を司った知識のはらわたをたぷたぷと揺らしながら
数行を改訂する
数行に足止めをくう
有用は有用故に有用によって損なわれ辱められる
無用は無用故に無用の実存を廃棄され無化される
損なわれ辱められ廃棄され無化されることで創成するもの
有用なものと無用なものとの闘いは褶曲する地層を造成する
形而上学的かつ党派的かつ世襲的非難応酬がを延々と押し合う
隆起しようとする意味 向斜させられる価値 それらネゴシエーション
有用と無用との破断線は曖昧模糊と化し
山折りにも谷折りにもできなくなる
その結果有用なものと無用なものとの確執は相調って
互いの体腔食い散らかし侵食しあい淫らな交合に溺れるばかり
その道のりには随意気儘な道路標識が配置され
恣意のままに方位は定められあるいは差し替えられ行く手はささくれる
求める動機も意図も構想も くずれる主体のかたちのままに翻弄され
ああ 俺はかつての飼い葉桶をなつかしみたくなる
数行を立て直す
数行はかたちの維持についに悲鳴をあげるであろうか
われわれが
くぐるべきかはたれどきに浮かびでる無用の拱門のそのまえで
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