「 祭 典 」2016年08月25日 21:45

「 祭 典 」


  会場が拍手で割れる
  会場が歓声に揺れる
  双手を高くあげ 
  全身を跳ねあげ
  色とりどりの旗を振る人
  感激に くやしさに 興奮に
  涙を流す人 抱き合う人 拳をつきあげる人
  意味をなさない歓喜の叫びをあげる人
  意味など気にとめず憤りと非難をあびせる人
  ただただ騒いで楽しめればそれで良い人も            
  会場に 世界に
  この世にあって見いだしたいものが現れる
  その快事を人びとは己に重ねて恋い焦がれる


  アナウンサーが選手を競技を弁舌つくしてたたえる
  ゲストは感涙の思いを重ね祭りを盛りあげる
  放送局は電話 メール ファクスで氾濫する
  いかに感動したか
  いかに誇りに思い
  いかにあこがれたか
  いかに手汗をにぎり
  いかに無念に思い
  いかに応援したか
  いかに愛しているか
  文字やイラストがさながら満開の花園のようだ
  人の努力が結実するよろこびに
  人の苦悩が報われるよろこびに
  人の勝利が輝き寿がれるよろこびに
  人の尽きぬ可能性に出会えるよろこびに
  それらひとつひとつが抱く秘話にさえこころが
  驚きふるえるのはなぜか


  人間が人間であるまえのエクスタシー
  人間が人間になろうとした回路
  増殖する生命 生存の飢渇 強迫する欲念
  群れるよろこび 群れる安堵 群れる幻想
  群れるアンビバレンツ 群れる争奪
  他者との遭遇 迷走する自我 所有の罠 
  征服の記憶 支配の疼き 存在の誇示 
  勝利というコード 記号による統覚
  競いあうにんげん 競いあう欲望 競合への衝動
  人間が人間であるために踏みこみ築いた人間の地平
  抑圧された幻 遠く置き去った原始との紐帯
  これら人間の潜められた刻印への拝跪が
  華やかな殿堂にあれば かくも激しく増幅される
  他者への憑依と転化 解禁されたタブー 荒ぶるおもいが
  かきたてられ 挑発されて 心はどこまでも勃起する


  粘つく自由
  強いられる諦め 
  受け入れる敗北 
  迎合する反復
  屈服する未来
  逃げ場のない孤独
  それら囲い込んでくる日常の檻を押しつぶし
  飼い慣らされてゆくこころの檻を打ち壊し
  現在を踏み越え無限の超克に挑み立ち
  つかのま 日常の風景から解き放たれようと
  気づかぬまま見えぬ壁に爪をたてている
  勝者へのあこがれ 敗者への関心の放棄
  次第に会場が 世界が
  この世のものでないものを
  この世のものでないものだけを
  ドラマを 奇蹟のドラマを
  奇蹟のドラマの上澄みを
  みせろみせろとダダをこねる大きなこどもの国になる


  巨額の利権が蠕動し簒奪(サンダツ)しあう舞台の袖
  あらゆる駆け引きが 容赦ない妨害と策略が
  強欲が ピンハネが 善意の搾取と強制が
  組織と組織の工作が 国と国との面子が抗争が
  相互の冷徹な政治が アルゴリズムがそのプログラムが
  競技者のこずるさが 競技者の背徳が
  敗者とともに画面から隠匿され抹消され  
  モザイク処理されボイスチェンジされ
  栄えある勝利の甘やかな匂いをまきあげる
  「参加」にこめられた思いはなしくずしの空洞と化し
  マニフェストなどどこ吹く風の飾り物
  リサーチされる勝者の商品価値政治価値そのうまみ  
  手早くバランスシートが書き直され勘定書きが飛び交って
  贅をこらし技巧を尽くし力任せにきらびやかに
  音響効果もかまびすしく 踊り狂うスポットライト
  演出家が腕をふるうその場かぎりのイリュージョン
  その目くらまし そのサブリミナル  その仕掛け
  見えてはならぬものの巧妙な排除やごまかしその偽計
  組織の 権力の 国家の 
  これらシンジケートの威信をかけて
  勝つことが至上命題であればこそ
  選別される光景 選別する誘導版
  見せたいものだけを見せようとする下卑た意図
  糊塗される動機 馴致される感度
  今様プロパガンディストのタクトはとまらず
  見たいものだけを見たがる観客の列
  見たいものだけを見るための順路
  原点は薄汚れ 原点は踏みにじられ 原点は見失われ
  かくして原点は原点の実体をみずから暴きだす
  なにが手段でなにが目的か なにが目的でなにを手段と化したか
  なにが演出でなにが真実か なにが現実でなにが捏造か
  混沌への移行 混沌の祝祭
  会場 露滴の世界


  勝利とはなに
  ひとがひとに勝つとはなに
  ひとはひとに勝つのか
  ひとがひとに敗れるとはなに
  ひとはひとに敗れるのか
  ひとの可能性とはなに
  ひとはひとにとっていかなる可能性か
  ひとの可能性をわれわれはいったい何で計りたいのか
  これら答えの用意されぬ問いを受け入れ可能な会場を
  われわれは用意できるだろうか
  これら答えの用意されぬこれらの問いに対峙できるだろうか
  この世に溢れる名の無い勇者たち
  この世に満ちる褒賞栄誉に無縁な戦士たち
  この世を埋めつくす名も知られぬ敗者たち
  この世にあって分別される「弱」者たち
  この世に放たれ絶望の海に漂流する力乏しい人びと
  この世におかれ虐げられ疎んじられ排除される人びと
  この世に佇み濁らずおのれの深部を見つめる人びと
  この世に寡黙に寄り添うこころ貧しい人びと
  あなたたちこそがいつか告知してくれる


  この世を支えるすべての人びとの
  観客席など一切不要の
  桂冠などすでに意味をなさぬ
  無償の祭典が
  いつどこで開かれるかを


                      -2016.08

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つれづれにしたためた作文を投稿させていただきます。本人は「詩」を書いているつもりですが,、恥ずかしながら「詩」とは何かがわかっているわけではありません。

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