「莫視我」2016年08月18日 10:37

「 莫視我 (我をな視たまいそ)」




   それは間違っていると君は言ってはくれなかった
  
   君の唇は干からびてひび割れるばかり
  
   それは義であると君は証言することもできなかった

   君の瞳は到来するはずの過失ばかりを追いかけていた

   それにぼくはどの池にあの斧を落としてしまったのか

   今では確信が持てなくなってしまい途方に暮れたまま

   思い返すにしても

   数十年を一炊の夢のように費やしてしまった

   同じ時間を繰り返す余裕が

   ぼくに許されるはずのないことなどわかっているのだし

   そもそも沈んでしまったものが斧だったのか

   それとも愛する人だったのか 

   なにかの宣誓書だったのか

   優しい人びとを打ちすえた醜い石礫だったのか

   そんなことも判別できなくなってきてぼくの憂鬱は深まるばかり

   池のほとりからぼくはいつ立ち去ったのだろう

   立ち去るときにうかつにもぼくは振り返ってしまったのだが 

   もちろんそれは間違っていると池が応えるはずもなかった




※註 「我をな視たまいそ」(『古事記』より)

「悔しかも、速(ト)く來まさず。
吾(=伊耶那美)は黄泉戸(ヨモツヘ=黄泉の国の火でつくった食糧)喫(グヒ)し。
然れども愛しき我が汝兄(ナセ=伊耶那岐)の命、入り來ませること恐(カシコ)し。 
かれ(=ですから)還りなむを。
しまらく黄泉神(ヨモツカミ)と論(アゲツラ=話・相談をしてみる)はむ。
我をな視たまひそ」
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つれづれにしたためた作文を投稿させていただきます。本人は「詩」を書いているつもりですが,、恥ずかしながら「詩」とは何かがわかっているわけではありません。

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